犬の血尿は危険信号!考えられる原因と治療法を獣医師が解説
2025/06/09

愛犬のおしっこに血が混ざる血尿は、膀胱炎や尿石症など泌尿器系の病気のサインかもしれません。放置すると悪化する可能性も。早期発見・治療が大切です。血尿に気づいたら早めに動物病院で検査を受けましょう。本記事では対処のポイントも紹介します。ぜひご覧ください。
犬の血尿は危険信号!考えられる原因と治療法を獣医師が解説
愛犬のおしっこに血が混ざる「血尿」は、膀胱炎や尿石症など泌尿器系の病気のサインかもしれません。放置すると症状が悪化し、命に関わる状態に陥る可能性もあるため、早期発見・治療が大切です。
血尿に気づいたら、できるだけ早めに動物病院で検査を受けましょう。本記事では、犬の血尿について考えられる原因と治療法を獣医師がわかりやすく解説します。あわせて、血尿に気づいたときの飼い主さんの対処法や、血尿を予防するための日常ケアのポイントも紹介します。
血尿とは?犬の尿に血が混じる状態について
血尿とは、尿の中に血液が混じっている状態を指します。犬の泌尿器は腎臓から尿管、膀胱、尿道へと続いており、そのどこかで出血が起こると血液が尿と一緒に排泄されて血尿になります。尿に混ざる血液の量や出血部位によって尿の色合いは異なり、ピンク色から赤色、茶褐色などに変化します。ごく少量の出血であれば尿全体が赤くならず点々と赤い血が混ざる程度で、見落としてしまうことも少なくありません。
尿の色が「なんとなく赤っぽい」「少しピンクかも?」という程度で明確に血尿と分からない場合は、排泄後のペットシーツに白いティッシュを押し当てて確認してみましょう。ティッシュに薄い赤色の染みが付けば尿に血液が混じっている証拠になります。なお、軽度の血尿自体は直ちに命に直結することは少ないものの、膀胱炎や尿路結石、腫瘍など重篤な病気やケガが隠れている場合もあるため注意が必要です。愛犬の健康を守るため、血尿に気づいたら様子を見ず早めに動物病院で検査を受けるようにしましょう。
犬が血尿を起こす主な原因
犬が血尿を起こす原因は様々ですが、主に泌尿器系の炎症・結石・腫瘍などが考えられます。以下、血尿の主な原因とそれぞれに特徴的なポイントについて解説します。
細菌性膀胱炎
細菌感染による膀胱炎は、犬の血尿の原因として最も多いものです。健康な犬の膀胱内には通常細菌はいませんが、尿道口から侵入した細菌が膀胱内で繁殖すると膀胱粘膜に炎症が生じ(膀胱炎)、その刺激で出血し血尿が起こります。一部のオス犬では、未去勢の場合に細菌性の前立腺炎や前立腺膿瘍が発生し、それが膀胱まで波及して膀胱炎を引き起こすケースもあります。
膀胱炎になると、排尿時に痛みを感じたり、排尿の姿勢を取っても少量しか出ない(残尿感)ため何度もトイレに行くといった症状がよく見られます。炎症が軽度なうちは頻尿などの目立った症状が出ず、ある日突然血尿だけ確認されるケースもあります。
尿路結石症
尿路結石症(尿石症)も犬の血尿の主要な原因です。膀胱や尿道など尿路に「結石」(結晶が固まった石)ができる病気で、結石が粘膜を刺激して膀胱炎に似た炎症や出血を起こします。特にストルバイト結石(リン酸アンモニウムマグネシウム)は、一部の細菌が産生する酵素の働きで尿がアルカリ性になると形成されやすく、犬の尿石症の大部分を占める代表的な結石です。もう一つ多いシュウ酸カルシウム結石は尿が酸性の環境で生じやすく、ストルバイトと並んで犬の尿石症の症例の過半数を占めています。いずれの結石も大きくなるほど膀胱や尿道の粘膜を傷つけて血尿の原因になります。特に尿道に結石が詰まると尿が全く出なくなり、腎不全や尿毒症に陥る危険があるため緊急の処置が必要です。
泌尿器系の腫瘍
膀胱や尿道など泌尿器に腫瘍が発生した場合にも血尿が起こります。下部尿路で犬によく見られる腫瘍として「移行上皮癌」があり、膀胱や尿道の内側を覆う上皮細胞が癌化する悪性腫瘍です。腫瘍細胞が膀胱粘膜の組織を破壊しながら増殖するため出血を伴い、血尿として認められます。初期段階では膀胱炎と症状が似ているため見分けがつきにくいことがありますが、腫瘍が進行すると膀胱内にポリープ状の塊が大きくなり尿道を塞いで排尿困難を引き起こすことがあります。また腫瘍の場所や大きさによっては尿の通り道を圧迫し、腎臓で尿を作る機能にも支障をきたす恐れがあります。特に移行上皮癌は悪性度が高く、肺や骨、リンパ節などへ転移することもあるため早期発見・治療が重要です。
その他(子宮蓄膿症や中毒など)
上記以外にも、血尿の背景には様々な病気や要因が隠れている場合があります。メス犬では、膣炎や子宮蓄膿症、子宮内膜炎など生殖器の病気によって陰部から出血や膿が見られ、それが排泄時に尿と混ざって血尿のように見えるケースがあります。オス犬の場合、前立腺肥大(加齢や男性ホルモンの影響で前立腺が肥大する病気)や前立腺炎といった前立腺の異常によって尿に血が混じることがあります。前立腺肥大では血尿のほか排便の困難(肥大した前立腺が直腸を圧迫するため)などの症状も現れることがあります。
そのほか、全身的な要因では中毒や感染症による赤血球の破壊(溶血)によって尿が赤くなる「血色素尿」のケースも知られています。例えばタマネギ中毒やマダニが媒介するバベシア症に罹患すると、赤血球が壊れてヘモグロビンが尿中に排出され、尿が赤~茶色く見えることがあります(実際には尿中に血液そのものが出ているわけではありません)。また、腎臓や尿管の疾患、交通事故などによる外傷でも泌尿器から出血すれば血尿の原因となります。
血尿とともに見られることが多い症状
愛犬に血尿が見られたとき、同時に現れやすい症状にも注意深く目を配りましょう。血尿とともによく見られる主な症状には、次のようなものがあります。
頻尿(何度もトイレに行く)
排尿時の痛み(排尿姿勢をとるときに痛がる、鳴く)
1回の尿量の減少(一度に出るおしっこの量が少ない)
陰部を頻繁に舐める(違和感や痛みのため患部を気にする)
元気消失・食欲低下・発熱(感染症を伴う場合に見られる全身症状)
排尿困難(排尿姿勢をとっても尿が出ない:尿路閉塞の疑い、緊急事態)
これらの症状が血尿と同時に見られたら要注意です。特に尿が全く出なくなる「尿閉(にょうへい)」の状態は命に関わる緊急事態ですので、すぐに動物病院に連絡してください。未避妊のメス犬で陰部から膿混じりの分泌物(おりもの)が出ている場合は子宮蓄膿症の可能性が高く、早急な治療が必要です。また未去勢のオス犬で排便困難や歩き方の異常(後ろ足をかばう様子など)が見られる場合は前立腺疾患が疑われます。それぞれ放置すると危険な症状ですので、一刻も早く受診しましょう。
愛犬が血尿したときの飼い主の対処法
まず、愛犬の尿に血が混ざっていても飼い主さんは慌てずに落ち着いて様子を観察してください。発情中のメス犬であれば生理出血が尿に付着して赤く見えているだけの可能性もありますが、発情期以外で血尿が見られたら早めに動物病院で診察を受けることをおすすめします。
受診までに飼い主さんができることとして、血尿の状況をできるだけ詳しく記録しておくと獣医師の診断に役立ちます。具体的には、以下のポイントをメモしておきましょう。
いつから血尿が出ているか
尿の色や濃さ(真っ赤、薄いピンク色など)
尿のどの部分に血が混ざるか(尿全体が赤いのか、一部にだけ血が混じるのか)
排尿の回数(普段より増えているか)
1回の排尿量(少ない、出にくそう等の変化)
愛犬の元気や食欲の変化
また、排泄直後の尿やトイレシーツをスマートフォンで撮影しておくと、来院時に獣医師への説明がしやすくなります。可能であれば清潔な容器に新鮮な尿を少量採取し、動物病院に持参するとその場で尿検査ができるため診断に有用です。自己判断で市販薬を与えたり、「元気はあるからもう少し様子を見よう」などと判断して受診を遅らせたりしないようにしましょう。特にオス犬で尿が出なくなっている場合(尿路閉塞の疑い)は一刻を争いますので、迷わず夜間救急など対応可能な動物病院に連絡してください。
動物病院で行われる検査と治療
動物病院ではまず問診と全身の身体検査を行い、血尿の原因を特定するため必要な各種検査を実施します。尿検査では、尿中の赤血球・白血球の有無や数を調べ、細菌感染の有無、結晶(結石のもとになる細かな石)の有無などを確認します。加えて、X線検査(レントゲン)や超音波検査(腹部エコー)といった画像診断により膀胱や腎臓の状態を詳しく調べます。必要に応じて尿を培養して細菌の種類を調べ、効果の高い抗生剤を選ぶといった精密検査が行われる場合もあります。血液検査も併せて行い、貧血や感染症の有無、腎臓・肝臓など主要臓器の機能を評価します。
検査によって原因が特定できたら、その結果に応じた適切な治療を行います。細菌性膀胱炎であれば抗生物質の投与による治療が必要です。尿石症の場合、結石の種類や大きさによっては食事療法(尿石溶解用の療法食の利用)を行い、体内で結石を溶かしたり再発を予防したりします。結石が大きい場合や膀胱腫瘍が見つかった場合は、外科手術による摘出が検討されます。出血や炎症を和らげるため、止血剤や抗炎症剤が用いられることもあります。子宮蓄膿症であれば子宮と卵巣を摘出する緊急手術と集中的な抗生剤治療・輸液などの全身管理が行われます。前立腺疾患の場合、良性の前立腺肥大には去勢手術やホルモン剤の投与が有効であり、細菌性の前立腺炎では抗生物質治療に加えて再発予防のため去勢が推奨されるケースがあります。このように原因に合わせた治療を行うことで、多くの場合、血尿の症状は改善に向かいます。
治療に要する期間は病気の種類や重症度によって異なりますが、膀胱炎など軽度のケースでは1週間前後の投薬で改善することが多いです。結石ができやすい体質の場合は療法食の継続給餌が必要になり、長期的な管理が求められます。外科手術を行った場合は入院管理や術後の経過観察が必要となり、抜糸まで含めて10日~2週間程度をみておきます。いずれの場合も、獣医師の指示に従って処方薬を最後まで飲み切ること、再発防止のケアを続けることが大切です。
血尿を予防するための日常ケア
すべての血尿を完全に予防することは難しいですが、日々の生活で泌尿器の健康に配慮することで発生リスクを下げることが期待できます。飼い主さんが日常で気をつけたいポイントをまとめました。
新鮮な水をいつでも飲めるようにする(水分摂取量が不足しないよう心がけましょう)
清潔で適切なトイレ環境と排泄機会の確保(室内トイレの清掃を怠らず、散歩やトイレの回数を十分にとり、尿を我慢させない)
普段から排尿の様子を観察する(尿の色やニオイに注意し、異常の早期発見に努める)
メス犬は避妊手術を検討する(出産予定のない場合、将来の子宮蓄膿症予防に有効です)
オス犬は去勢手術を検討する(高齢になると前立腺疾患のリスクが高まるため。去勢により前立腺肥大の予防・改善が期待できます)
尿石症の再発予防(獣医師の指導のもと適切な食事管理を行い、必要に応じて療法食を継続する。体重管理や適度な運動も大切)
中毒予防(タマネギやチョコレートなど有害な食品は与えない。誤飲・誤食しやすい物は犬の届かない場所に置く)
基本的には、規則正しい生活リズムと清潔な環境、バランスの取れた食事や十分な水分補給といった健康的な生活習慣が、泌尿器系のトラブル予防に良い影響を与えます。日頃から愛犬の排泄の状態をよく観察し、小さな異変も見逃さないようにしてあげましょう。
まとめ(早期受診の大切さ)
犬の血尿は危険信号となり得る重要な症状です。膀胱炎や尿石症のように比較的軽度で治療により改善する病気から、放置すれば命に関わる子宮蓄膿症・膀胱腫瘍・前立腺疾患・急性腎不全などまで、その原因は多岐にわたります。愛犬がおしっこに血を混ぜていたら、「元気だからもう少し様子を見よう」と判断せず、できるだけ早く動物病院で検査を受けてください。早期発見・早期治療が愛犬の健康と命を守る上で何よりも重要です。
当院は東京23区エリアからの来院にも対応しております。
尿検査や超音波検査などの設備を整え、犬の血尿の原因となる病気に対して迅速かつ適切に対応いたします。大切な家族である愛犬の健康のため、尿に少しでも異常を感じたらお早めに当院までご相談ください。